彼女は彼女を天使と呼んだ(38)
二人がかりで荷物を持つという行動は、駅の自動改札に怒られたりして、少々どころではない苦労をした。
しかし、そのまま図書館に置きっぱなしにすれば、彼の勘違いはエスカレートしよう。それで今更会議降りられても困るし、ウワサのタネに水やることもない。
夕ラッシュの電車に頭下げて持ち込み、一駅乗って降りる。
エレベータで橋上へ上がって改札を抜ける。理絵子の家はここから西側の階段を下りるが、主将君の家は東側だ。
駅前のわずかな商店街を抜けると風景が寂しくなる。夕陽受けながら一本道を行き、畑と住宅が市松模様を描く中に建つ、鉄筋3階建てのアパート。
呼び鈴ピンポン。
『はい』
警戒に満ちた大人の女性の声。
同じ中学の黒野で忘れ物を届けに来た、と言うと、それでもドアチェーン越しの対応。
「あのこれ……」
バッグを見せると、まぁまぁ済みませんと女性はようやくドアを開けた。エプロン姿であり彼の母親と言った。
「ごめんねぇ、この辺物騒でぶっきらぼうな対応になってしまって」
「いえいえこちらこそお忙しいところ突然。図書館に忘れて行ったのを見たので」
「あらそう。帰ってくるなり布団に潜り込んで出てこないから。ちょっと健太(けんた)、出てきてお礼くらい言いなさいよ。女の子二人にこんな重いモノ持たせてどういうつもり?しかもこっちの彼女高校生じゃない」
無言。
「健太ッ!」
こっちが驚くような怒鳴り声。
「すいませんね、照れてるのかしらね。まぁ女の子がウチに訪ねてくるのは初めてだしね」
初めて。その違和感。
あんな〝モテモテ〟なのに?
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -11-(2023.01.25)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -10-(2023.01.11)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -09-(2022.12.28)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -08-(2022.12.14)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -07-(2022.11.30)
コメント