彼女は彼女を天使と呼んだ(46)
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
熱さのままにか、速度を上げて迸る彼の声を、彼女はどうにか遮った。
家路へ向かう乗客を背にした彼には、自分しか見えていない。
他方、自分には自分たちを見る多くの目ばかり見えている。
「やっぱりオレのこと嫌いか?」
「そうじゃなくて」
早くこの場を逃れたい。
しかし。
「待って」
出せる限りの大きな声を出したつもり。
「今は待って」
自分の言葉に自分自身落ち着いてくる。彼が〝勇者のライオン狩り〟から、本当の好意に移行したのは判った。それは尊重したい。手紙など間接手段ではなく、こんな皆前で真っ直ぐ口にするのも、それだけ気持ちが強い裏返しだろう。
だが、それに対してすぐ答えを出せと言うのは勘弁して欲しい。
どうしても、というのであれば、たった今の気持ちを答えろというのであれば。
例の会議が終わるまで最低限必要な〝仲間〟という関係すら崩れてしまう。
言うべき言葉が見つかった。
だから、ようやく顔を上げられる。彼を見られる。
「イエスかノーかと言われると、どっちの答えも今は言えない。今まで、そういう風に君のこと考えたことなかったから」
〝即否定〟でなかったせいか、彼の手の力は緩んだ。
そのタイミングで、掴まれた手を何となく自分の身元に引き戻す。
「だから、考えさせて、会議が終わるまで。まず、請け負ったことはちゃんとやろうよ。立候補したのは君自身なんだし」
自分の言葉に力が戻ってくるのを感じる。
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