彼女は彼女を天使と呼んだ(48)
以下気が付いた時はベッドの中。記憶がごっそり無く、母親と二言三言交わしたなぁというのがまるで夢の中のよう。夕食や入浴は全く憶えがないが、パジャマ着ているのでやることやったんだろう。
目が閉じられず天井をじっと見る。すると天井付近に毛玉のような物体がふわふわ出現して漂う。但しそれらは肉眼で見えるモノではない。理絵子自身は〝午前2時の訪問者〟と呼ぶ。古い気持ちの断片や一人歩きしている夢、怨念などである。霊魂のように振る舞うが、人格とまでは言えない。普段なら彼らの話を聞いて慰めたりするのだが、ごめん今日はそんな気分じゃないと考えたら、蜘蛛の子散らすようにパッと消えた。
何か変わる訳じゃないが、大げさにため息付いてみる。自分の意志は決まっている。されど彼の心意気は買いたい気もする。そして明日も明後日も顔を合わせざるを得ない。
で、北村由佳は?
ちょっと待て。彼に対してとりつく島もない素振りだった自分が、今逆に彼に気を使っているのはナニユエ?
テレパシー能力にすがれるならすがりたい。しかしアレは今そこにあるものが判るだけであって、その先を予測するのはプレコグニションという別の能力。だがそのプレコグニション……予知予感にしたところで、因果律には従うわけで、起こしてもいない事象まで見えるわけではない。〝こんな言葉で彼を袖にしたらこんな反応が返る〟そこまでは示唆されない。言った瞬間に初めて判るのだ。予知と占いの違いはそこである。ウラナイはウラヅケガナイの略だと考えた方が実態には合っている。
でなくて。それ以前に自分は彼にどんな反応を期待しているのだろう。あきらめて手を引け?
自分の意に沿う反応を相手から引き出すのは思想コントロールとか洗脳とかいうのだ。〝黒野理絵子は嫌いだ〟という意志を彼自身に紡がせるのである。言葉で誘導すれば籠絡、思いこませるのが催眠術。更にはテレパシーで暗示を掛ける。
それじゃオカルト小説に出てくる超能力戦争。ああ成る程、念動力を恣意的に使いたいという人の気持ちが判る。
思考の発散を自覚する。核心に目を向けると無関係なことを考え出すのだ。結論を出すことを無意識に避けているかのようである。結局、要するに、何を言えばいい?
眠れやしない。
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