彼女は彼女を天使と呼んだ(40)
他方理絵子の感触。骨に直接というか、肉感的というか、その節くれ立ったようなゴツさと、〝肌のきめの粗さ〟は、記憶にある父親の大きな掌を思わせる。
ただ。
少し、しっとりしていた。
「まぁ眺めてみて、明日意見を聞かせてよ」
「う、うん」
震えているのか、彼の手の中で、コピー紙がカサッ、カサッと音を立てる。
とまれ用は済んだ。
「じゃ」
「お邪魔しました」
二人は口々に言い、頭を下げ去ろうとする。引き留めたのは彼の母親。
「あ~ちょっと待って。健太。あんたはレディに荷物持たせて。あまつさえはこの夜道を二人でトボトボ帰らせる気かい?」
いえ、二人でルンルン帰れますので、と、言おうとしたら、主将健太はしゃちほこばった。
「それは……」
サングラスをしていても判る逡巡。
母親は溜め息。
「じゃぁあたしがクルマでひとっ走り行ってくるかねぇ」
「判ってるって行く行く。オレが送ってくよ。でもちょっと待ってくれよ。砂が目に入って取れなくて涙目なんだよ。みっともねーんだよ」
「それって、病院行った方が良くない?」
理絵子は小首を傾げて提案し、サングラスの奥を覗き込むように見た。
それならそれで他意はない。目玉に傷が付いてその傷の中に砂粒が、というのは実際あり得る。
すると、主将健太は盛大にブンブンと首を左右に振り、
「あ、いやそれほどじゃない。ぜってぇそんなことねぇから。とにかくちょっと待ってくれよ。用意して来るから」
健太君はバタバタと自室に戻って行く。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -11-(2023.01.25)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -10-(2023.01.11)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -09-(2022.12.28)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -08-(2022.12.14)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -07-(2022.11.30)
コメント