彼女は彼女を天使と呼んだ(53)
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結局、黒板は交換しかないと判明し、業者に工事を依頼する一方、その間の移動先仮教室に、生徒達は色めき立った。
多目的室。
「他に無いんです」
担任竹内は言ったが、しかし積極的に移動を始める生徒はいない。桜井優子が先にスタスタ歩き出した程度。
どころか、逆に、理絵子に視線が集まる。
その理由。
「大丈夫だってば」
理絵子は笑って言った。多目的室。それは少子化の進行で使われなくなった〝校舎4階〟の3つの教室のひとつ。
件の幽霊話はその校舎4階の出来事、但し多目的室ではなく、第2音楽室のことだ。
とはいえ、その音楽室から飛び降り自殺した女生徒がいたのは確かである。
「その件は音楽室だし。それに済んだ話」
集まる目線に理絵子は今度は真面目に答えた。自信を持って過去形で言える。
解決を見届けた当人だからである。
ただ。
「でも……」
尚残る、クラス一杯分の躊躇。
ここで、幽霊さんならちゃんとあっちに行った。ウワサ通り私が霊能で確認した。とでも言えれば、尚良いのかも知れない。しかし、やはり出来れば秘密にしておきたい。それに、事実と知って興味本位で何かされると、もっと困った事態になる、そんな気がする。
〝四十九日〟という風習はダテではないのだ。
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