【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【8】
(承前)
比して彼の弾く音の悲しさ。
「あーもう、ムカつく」
ひっかかりもっかかり。先に進みません。でも悲しい感じはそれだけじゃない。
曲想が短調というわけでもない。譜面通り音が出ている時でも、調べに弾んだ感じがない。
彼はピアノを〝やらされて〟いるんじゃないのか。それが私の率直な感想。
「いいや、もう!」
彼は吐き捨てるように練習を打ち切り、ピアノの鍵盤の蓋を閉め、カバンを持って出て行きました。
行ってきます、の声と、玄関ドアをバタンと閉める音。
主のいなくなった部屋を私はぐるりと見回します。木の温もりに包まれたはずの部屋なのに、ひんやりとよどんだ空気。冬のせい?
ベランダへ出られるガラス戸をコン、コンと叩く音。
私はギョッとしました。今は手のひらサイズですが、気付かれたんでしょうか。
違いました。さっきのムクドリです。
〈大丈夫ですか?見つかって捕まったんじゃないかと〉
〈違うよ。心配してくれてありがとう。その、ちょっと気になってね〉
〈彼は、〝殺し屋〟ですよ〉
物凄い言葉。
〈何か見たの?〉
行列しているアリを一匹ずつ潰す。
凄惨なので略させていただいて。
あまつさえは、小さい子を、行きずりに、叩く。
優しいね。彼のお母さんはそう言いました。
クモをヒータまで用意して飼う……優しさがなければ出来ないことでしょう。
〈でもね、妖精さん〉
ムクドリは一呼吸置いて。
〈優しさが無くても生き物を生かしておくことは出来るんですよ〉
鳥類なので喩えは鳥です。人工光で生体産卵機械にされたニワトリの話。フォアグラはガチョウに無理矢理エサを食べさせた結果の脂肪肝。
無理矢理エサ……倉庫のクモたちが頭をよぎります。
その時でした。
(つづく)
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