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彼女は彼女を天使と呼んだ(30)

 示唆。
 理絵子は机の中からノートを引っ張り出し、シャープペンシルの芯をカチカチ立てた。
「出た部長のネタ帳」
「何それ」
「我が文芸部の発表する話の大半は、このノートから始まる」
「それって要するにおんぶにだっこじゃ……」
「部外者はシャラップ」
「先に言ったのはあんた」
 そんな頭の上の二人の会話。
 その二人が覗き込んだノートに、理絵子が走らせた文言。

『今までは見ることも聞くこともなかった誰かのどこかの勝手な悪口が誰でも見られる状態になっている』

「何これ」
 頭の二人は同時に訊いた。
「句読点ないから読みづらいし……」
「シャラップ。まじめに。ネットいじめの本質。ある意味テレパシーで全部判ってしまい、そして全部知らされる。それと同じじゃないかって」
「よく判りませんが」
「つまりね……」
 校舎の隅で陰口、帰り道で誰かの悪口。
「その話し合う場所をネット上に移したために、関係のない人がそれを見て油を注ぎ、ひいては本人が見て傷つく。『あんただから言うんだけどさ、あいつムカつかね?』そんな、〝ここだけの話〟が、当の本人に聞こえてしまう。〝全バレ〟になる」
 田島綾が目を見開いた。
「自分の知らないところで色々言われることが……」
「そう。それだけで済んだはずのことが全体に公開されている。残り続ける。それこそテレパシーで全部判ってしまうのと大差ない」
 理絵子は言って、自らの言葉に身震いした。そもそも、テレビジョンというのは元々千里眼能力を指すその筋の用語である。テレ(tele)は『遠隔の』を意味する接頭辞だ。
 手のひらの、机の上のテレパシー。
 しかも多分に恣意的で利己的で。
 偏向があり、
 意図せず野放図。

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