【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【11】
「あらぁ……どうする?今日はテストやめる?いいのよ。無理しなくても。先生がおうちに電話してお母さんに説明してあげるから」
前かがみで女の子の顔を覗き込み、先生が尋ねます。まぁ、動揺した心に緊張を強いることもありません。
「でも……」
女の子は困った顔。早く上手になりたい、そんな積極性を感じます。
ならば。
「よし、お姉ちゃんが魔法をかけてあげる」
私は言いました。電線で見ているスズメたちに肩越し指先おいでおいで。
〈えっ?〉
〈妖精さん何を?〉
〈いいからちょっと来て〉
スズメたちは私の両手指と肩に止まりました。
「わぁすごい」
「あら」
私はウィンクして。
「この鳥たちの歌声を女の子の指先に」
口にして、手を握る。
「じゃぁ、頑張ってね」
私は言って、走り出しました。
急げという示唆。その理由はひとつ。テレパシーが教える男の子の意識の暴走。そう、先程来の自暴自棄。
角を曲がって身体を縮めて飛び立つ。テレポーテーションは距離が稼げない。
と、私の意識を貫く、強いショックを受けた心が放つ衝撃波。
男の子の心。今彼の目に映っているのは。映っているのは。
翅が私をその場に運びました。
「ウチのゆたかがそんなコトするはずありません!」
玄関前の人だかり。囲みの中で声を荒げるゆたか君のお母様。
「いいえ!お宅のお子さんです。これで違うとでも!?」
大きな声の女性が、携帯電話の画面を開こうとしています。写真を撮ったと言うことでしょう。その女性の傍らには、三角巾で腕を吊った女の子。
その女の子が後ろを振り返る。
「あの子だ!」
指さす先には男の子。
電信柱の陰から様子を窺っていたのです。
彼は壊れる。
虚偽、嘘、隠蔽。
装っていた〝優しいいい子〟。
〈助けてあげて〉
意志飛ばしてきたのはクモたち。
12月だからとヒーターを入れて生かしているクモたち。
判った。私は舞い降ります。身体を伸ばし、翅を広げ、彼の背後に降り立つ。
集まる瞳が見開かれる。
私は彼を背後から抱きすくめ。
ガイア様あなたの裁量に委ねます。
(つづく)
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