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気づきもしないで【2】

 帰って着替えて、釣り竿のケースを背負って自転車にまたがる。
「タイキ!釣りより先に勉強だろうが!」
 とりあえず母親は無視して川とは逆にこぎ出し、峠越え。一気に600メートルを越えるので道はつづら折りだ。ところどころ木立の向こうに線路が見え隠れ。付かず離れず。
 昔この道はケモノ道同然で、トンネルでぶち抜く線路の方が〝砂利で整備された近道〟だったから、列車のない時間を見計らい、自転車やリヤカー引いてトンネルを歩いたんだとか。
 オレもそうすれば良かったかなと思って程なく峠のてっぺん。ここまでは心臓破りだが、越えてしまえば下る一方。
 隣町には病院があって、そばに花屋がある。目的地はそこ。
 いやもちろんオレの住んでる地域にも花屋はあるんだが、地元密着の商店だからして、どう考えてもオレが買ったとすぐバレるし、そうなったら「なんで?」とアッという間に広がるに決まっている。質問責めになって理由を喋る羽目になる。そんなことになったが最後、絶対面白半分に花抜くバカが出るに決まっているのだ。そうか〝言わぬが花〟ってこういう場合に使うのか(何か違うぞby作者)。
 横断歩道を渡って店先へ到着。用心に越したことはないので、誰もいないことを確認してから店に入る。
「いらっしゃいませ。お見舞いですか?」
 いかにも花屋向きって感じのパッチリした目のお姉さん。
「ぐ、グラジオラス下さい」
 キョロキョロ見回しながら早口でボソボソっと。
 ……世間一般は挙動不審と言うだろう。

つづく

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