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彼女は彼女を天使と呼んだ(44)

「汚れっちまった悲しみに。か……」
「その中原なんとかって教科書にあった原爆の」
 健太君が言う。彼が自分たちの会話に必死で付いて来ようとし始めていることを理絵子は理解する。
「それ原民喜とゴッチャになってる。帰ったら『汚れっちまった悲しみに』、でネットで検索してみな。著作権切れてるから多分ワラワラ出てくる」
「検索したらいっぱい出てきました。ありがとうございました、ってちゃんとメールすんだよ。じゃね」
 本橋美砂が一人離れて足を早める。一行は既に駅舎近くまで来ており、踏切が作動し始めたところ。
 彼女は都心からやってくるステンレス電車の終点から、更に中古の電車へ乗り換え、山間に分け入って行く。
 中古の電車は40分に一本。逃せばホームの天狗像の前で待ちぼうけ。
「あ、あの待って」
 彼は美砂を追いかけ、階段を上がって改札前でようやく彼女を捕まえた。
「その、ありがとう。これ、母親が途中で食べてって」
 ラップにくるんだおにぎりひとつ。
「あそ。お母様によろしく」
 本橋美砂はウィンクすると改札にカードをかざしてホームへ向かった。
 理絵子はそこでようやく追いついた。
「二人とも速いよ」
 本橋美砂の身長は163。そして彼はサッカー部。
「美砂姉は?」
「行ったよ。間に合ったと思う」
 聞こえてくる出発チャイム。ちゃらぽらぴんぽん~……そして代わりに、ホームから改札めがけて歩いてくる多くの下車客。
 心配にOKが返ってくる。一安心。
「ならいいや。そういやその、汚れっちまった、も、よく読むとこの状況予言してるみたいで怖いよ。じゃ、ありがと送り狼さん。また明日」
 理絵子は彼に手を振り、そのまま駅の反対側階段へ向かおうとした。
 その手を掴む、骨と筋肉だけで出来た大きな掌。
 熱い掌。
「理絵ちゃん」
「え……」

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