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彼女は彼女を天使と呼んだ(55)

「御札とか貼る?」
「しないしない」
「巫女装束着ないの?」
「密教の流儀でやります」
「陰陽道と密教ってどこが違うの?」
「真言なんか多く共通。日本古来のシャーマニズムと形而上的な部分で親和性があったから融合したと見るべきじゃないかと。これに神仏習合と明治以降の廃仏毀釈がまざくりあって、例えば遠野物語あたりでも仏様のたたりを巫女を呼んで鎮めたなんて話があるよ」
 理絵子は言いながら、りぼんの替わりにセーラーのスカーフを解いて外し、一旦口にくわえ、髪の毛をたくし上げてスカーフで結び、ポニーテールにした。
 鮮烈な切れ味と書けるか、その素早く無駄のない所作に、男女の別なくクラス中が見入った。
 使った言葉と、動きと、準備整ったその姿。
「始めていい?」
 冬の陽光を背にクラス中に問う。
「あ、おう!」
 糸山秀一郎の回答。
 理絵子は頷くと一呼吸。どの真言を使うか考える。便宜的なものだし、不安を鎮めるためだけ。だったら不動明王か……九字を切るという言葉をご存じの方には、そのうちの〝臨〟に当たると言えば通じようか、その場に臨んでなお不動の心根を、そんな方向性だ。
「みんなも知ってる高幡不動(たかはたふどう)のお不動さんで」
 両の手を組み合わせて印契。不動根本印。

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