彼女は彼女を天使と呼んだ(35)
「え……」
周囲のざわつきが静まって注目が集まる。
居合わせた制服は様々である。中学のみならず高校も混じる。ただ、逆に言えばその手の話は無関係でも気になる年齢帯。
「俺……」
「空気読め、少年」
藤川高校制服の腕が主将君の頭を文庫本でポンと叩いた。
「美砂姉……」
「痛ってぇ誰だおめ……あ、綺麗なひと」
主将君は頭を押さえて見上げるなりそう言った。
「君のオンナを見る目はそれだけか?」
本橋美砂である。ここは彼女の通学路内。話している限り本は好きそうだし、居合わせておかしくない。或いは理絵子を遙かに上回る(と、理絵子は認識している)、その超常感覚で察知しここへ来たのか。
まさか。
「TPOはわきまえような。まぁとりあえずこの辺読んで再度アプローチしてみたらどないや」
その文庫本を持たせる。夏目漱石〝こころ〟。
「野菊の墓も持たせた方がいいかい?」
本橋美砂は理絵子に目を向けた。
「いや、ヒロイン死ぬから」
「こっちだと彼が死ぬよ」
主将君は表紙をじっと眺めている。
それは本橋美砂の助言を真に受け、対し正統派文学に対する拒否反応との葛藤。
……裏返せば理絵子にアプローチする意志明確。
理絵子がそう気付いて本橋美砂を見たら、彼女は小悪魔の笑みを浮かべた。
何か策あり?
「悩むな。難しくないから。現代仮名遣いだし。私(わたくし)はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない」
本橋美砂は同作冒頭を諳んじてみせた。
自分を見る。え?そゆこと?
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