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彼女は彼女を天使と呼んだ(43)

 本橋美砂は根本的に小悪魔なのだと理絵子はコッソリ確信した。ただ、その台詞によって、彼にも〝課題〟に対する当事者意識が芽生えた、とも同時に思った。
 対岸の火事であったであろう〝ネット世界で起きていること〟が、急に現実味を帯びて感じられたはずなのだ。
 勝手にウソを言われ、書かれ、コピーされ増幅する。それを受けて脳内で憶測が進む。それがネット世界ドロドロの本質だからだ。
 そして、それらをもたらすのは十代特有のココロ。なお、〝べや〟はこの地から神奈川県北部地域にかけての方言といって良い。
「自分が傷付けられるのはイヤだけど、自分の言動が人を傷付けているかどうかは考えていない。そのくせそもそも、傷つきやすい」
 理絵子は言った。
「理絵ちゃんそういう託宣的な飛躍的結論がウワサの根源でないかい?」
 本橋美砂は言い、時計を見てさっさと歩き出した。そして健太君を追い抜きざま。
「見ちゃいないよ。何入ってるか知らないし、興味もない。男の子の汗臭い部活のバッグなんか誰が見るかい。君が勝手にそう決めつけて勝手に狼狽えているだけ。でも、そういう気持ちこそが裏にカキコミをされた子の気持ちだ。理絵ちゃんは多分そう言いたい」
「ああ、うん……」
 彼は夢から目覚めたようにワンテンポ置いてそう言った。
 歩く順番が代わる。先頭が本橋美砂で、真ん中が健太君、しんがりが理絵子。
 ……これが仮に狼の群れなら、守られているのは彼ということになるのだが。
 しかも、これからが人の多い商店街なのだが。都心に比し夕刻の気温低下が早いこの地方は、帰宅する人々の足も早い。閉店時間は気分次第という個人商店の中には、早々にシャッターを下ろすところも。
「女の子って大人だな」
 彼は悟ったように言った。
「あんな会議、テキトーこと言っときゃいいじゃん。って思ってた」
「男の子はがさつで大ざっぱくらいが丁度いいんだよ。繊細な男の子は扱いづらい」
 本橋美砂が言って小笑い。
「中原中也」
 パチンコ屋の小喧しい店先を歩きながら、理絵子はぼそっと言った。詩人といわぬが繊細な男の子がクラスにいる。否定はしないで。

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