彼女は彼女を天使と呼んだ(45)
呼び止められ、手を引かれる。
超感覚の類を要するまでもなかった。これまでの全ての累積とシチュエーションが、一点への収斂を示唆していた。
何を言われるか、判っている。
首をすくめて下を向く。彼は、半ば強引なまでに、理絵子の手をぐいと引っ張った。
「あ……」
元々緩めの背中のりぼんが解けて落ちる。髪が広がり肩に流れ、うつむく理絵子の顔を衆目から覆い隠す。
鞄を持っていた反対側の手も取られ、両手を引かれ、
彼は、彼女の身体を、力ずく、と書けるか、自分に向けた。
しかし、彼女は、彼の顔が見れない。
見られない、ではなく、見れない。
「君が好きだ」
ああやっぱり。
それは判っていたこと。なのに、全身が感電したようにびくりと震える。
下車客の顔が自分たちへと向けられる。手と手を取り合う中学生の男女。それ故の好奇の目線。
言葉が出てこない。状況は判ってる。何が起きているか知っている。でも、考えるべきコトと、言うべきコトが見つからない。
彼が自分をどうにか、という意志を持っていたのは前述の通りである。だが軽々しさしか感じなかったその時と、今この瞬間とは意味が違う。
「本気だよ」
「判ってる」
彼女はどうにかそれだけ言った。絞り出した。雑踏に消えそうな掠れた声。
握る彼の手の力が強くなる。
「可愛いなってずっと思ってた。でも、それだけじゃなかった。会うたびに話すたびに君ばかりが輝いて君しか見えなくなって……」
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