彼女は彼女を天使と呼んだ(29)
皆前で、正面からそれを訊いたのは彼女が初めてだ。
「ありがと」
理絵子は綾に顔を戻し、まずゆっくりとそう言い、
「だとしたら、嬉しい?」
と、逆に訊いた。
目を見開く田島綾。
「え……」
「全部判っちゃうんだよ。考えてること隠してること、とにかく全部。自分の考えを自分の知らない間に見透かされる。私は持たれるのも持つのもイヤだけどね。知りたくないことまで判っちゃうなんて、そのうち気が狂うと思う」
「でも……」
「真言(しんごん)を『っぽく』発するくらい高尾山に一日いれば出来るって。陰陽(おんみょう)とも共通点が多いから大して苦労しない。おん ぼうじしった ぼだはだやみ」
理絵子はその民宿でクラブの合宿を行った際、行きがかりで巫女の衣を纏って神事に参加したことがある。田島綾はその時から理絵子の〝本質〟について疑いを持っている。
それを背景とした田島綾の『でも』、である。
「綾の気持ちはありがたくもらった。でもね、自分の知らないところで色々言われるのは誰でもあること。全部気にしてたらそれはそれで気が狂う」
理絵子は言い、自分のその言葉に大きな示唆が含まれていることに気が付き、目を円くした。
「どしたの?」
ビデオの静止画のように動きを止めた理絵子の顔を田島綾が覗き込む。
頭の上の友人も異変と気付いて正面に回った。
「託宣受けた巫女ぽくね?」
「巫女だよね」
「天使ヴァーサス巫女ですか」
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