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ブリリアント・ハート【10】

 その間にレムリアはサロメチールを塗り終わり、ウェストバッグから今度は包帯を出した。固定するため足首に巻く。
 階段下にワンボックスタイプの警察車輌が横付けされた。
 後ろのハッチドアが開く。
「足を動かさないように、心臓より高い位置に。病院には『内返しねんざ』と伝えてください」
「どうもありがとう。…って君、用意がいいし詳しいね」
 レムリアはハッとした。つい。
「…自分も経験あるので。あ、痛がったら冷やしてあげて下さい」
「判った。ありがとう」
 警官は女性を担架に乗せて運び、そのままワンボックスの荷室に運び込んだ。
 サイレンを鳴らして走り出す。
 自分に集まる周囲の目。
「はは、どうも…」
 照れ笑いなどしてその場から去ろうとする。
 その時。
「ちょっと待って」
 聡明さを伺わせる背後からの女声。
 香水に混じったかすかな消毒薬の匂い。
 同業者。すなわち勤務開けの看護師さん。
「あなた今…」
 指摘したい内容は判る。内返しねんざは“業界”用語。使ったサロメチールも、メーカー名がデザインされた薬屋の市販品ではなく、モノが何かだけ素っ気なく書いてある業務用。
 ニセ看護師と言いたいか、ひょっとすると看護師兼業王女某を知っているか。ただどちらにせよ、公衆の面前でそれを指摘されるのはとても困る。
 レムリアは振り返る前に人差し指を自らの唇に当てる。静かにして欲しい時の“しーっ”の動作に似て。
「(意図したこと形をなさず)」
 日本語にするとそんな意味になる文言を小さく口にし、振り返り、一瞬その指で女性の目を指差し、指先をフッと吹く。

つづく

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