気づきもしないで【1】
花があるのは知っていた。時々変わっているのも知っていた。花が絶えることはなく、枯れたりしおれたりすることもなく。
古びた土壁の駅で、そこだけは生き続けていた。閉ざされた窓口はガラスが割られ、挙げ句板が貼られて塞がれ、ベンチは腐って処分され、人が列車を待つ場所では既にない。
ほんのわずかな時間のために、1日8本の列車のために、誰がわざわざ?
だから、グラジオラスがしぼんでもそのままになっているのを見たとき、オレは思わず足を止めた。学校へ急ぐ仲間達の流れの中で、オレだけ岩に引っかかった流木のように、立ち止まって隅を見つめた。
「あんだよ」
「邪魔だろ」
「ああ、わりい」
カバンと、ズボンと、ミニスカートの向こうで、赤と黄色が下を向いていた。
オレは駅が空になるのを待って、ケータイのカメラを花たちに向けた。
実は、グラジオラス、と判ったのは、この時の写真を手に図書室で図鑑を探したからだ。その辺で咲いてる花じゃないけど、花屋では売っていそうだ。
花なんて興味はなかった。
だけどあの駅のあの有様で、あの花が枯れてしまったら。
うまく言えないけど、〝終わり〟な気がする。
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