【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【10】
(承前)
教室のドアが激しく開かれました。
「二度と来るもんかくそばばぁ!死んじまえ!」
ドアの中に向かって声を限りに怒鳴っているのは確かにあの男の子。
手にしたカバンを教室の中へ投げつけます。
ドアを蹴って閉じ、駆け出そうとすると。
ピアノ教室へ入って行こうとする女の子と鉢合わせ。
彼より幼い感じです。幼稚園の年長さん、そのくらいでしょうか。
女の子は立ち止まり、想像を絶する事態に恐らく何事かと彼を見たのでしょう。
……危険。それは私の予知。
「じろじろ見てんじゃねぇ!」
リクラ・ラクラ・テレポータ。
彼は女の子を突き飛ばし、
女の子の身体が宙に舞い、
背中から落ちるその下に私の翅が入り込む。
彼は既に背を向けて走り出しています。突き飛ばした結果が何を招くかなんて考えていない。どうでもいい。すなわち自暴自棄。
私は翅が女の子を捉えたことを確かめ、腕を添えて翅を縮めます。良かった。どこもぶつけていない。
突然突き飛ばされた女の子が泣き出しました。
「大丈夫だよ」
ピアノ教室のドアが開かれ、銀髪にパーマの先生が出ていらして、目にしたのは、白装束の女が女の子の後頭部を撫でている図。
「通りがかったもので……」
「あらあらすみません。今の男の子の仕業ね。今日という今日は我慢できないわ」
見れば先生の頬にアザ。
「今の男の子は精神的に不安定なのでしょうか」
尋ねると、不安定どころじゃない、病的だ。旨、先生は仰いました。お怒りのせいもあり、かなりきつい表現です。そして、練習もして来ないで指摘に対して反抗する、と。
「……全く親の顔が。あら、ごめんなさいね。見ず知らずの方に愚痴なんか言ってしまって」
「いえいえこちらこそ。ただ、子どもさんにしてはちょっと余りにもと思って」
「『一番にして下さい』あの子の母親にはそう言われたわ。でも……」
「義務や義理の音楽は楽しくないですね」
と、女の子が。
「先生、こわかった……」
「あらぁ……どうする?今日はテストやめる?いいのよ。無理しなくても。先生がおうちに電話してお母さんに説明してあげるから」
(つづく)
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