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2009年2月25日 (水)

彼女は彼女を天使と呼んだ(82)

「いや……私にはできない。もう力がない」
「私は犬畜生憑きであんた天使じゃないのかい?」
 高千穂登与は嫌がり、腕を振り切り、逃げようとした。理絵子は彼女をいっそう上回る力で捉え、引き寄せ、理科準備室へ引っ張り込んだ。
 すると即座に反応があった。準備室のドアが爆発的勢いと音を持って閉じられた。
 念動、ポルターガイスト……どっちも違うが、どっちも正しい。
 あからさまな超常現象に高千穂登与は悲鳴を上げた。
 理絵子は気付く。……この事態は彼女の予想外。
 強い示唆と危険のシグナル。まず状況を把握せよ。
 高千穂登与は怒鳴り散らす。
「いやだと言ったんだ!だからいやだと言ったじゃないか。殺される。悪魔が取り立てに来る……」
 高千穂登与は閉まったドアに貼り付き、開けようとした。
 しかし開かない。廊下側からも激しくノックし、開けようとしているようだが、微動だにしない。
 保健室のように人力で破れるレベルでは最早ない。確認するまでもなく暗幕カーテンも固定されており、陽光を呼び込むことも出来ない。
 一つ判る。ここは自分たち……いや違う。
 自分。黒野理絵子が入った瞬間に閉ざされるように用意された檻。
 超常の罠。級友に容易に見つけさせ……ええ引っかかりましたよ。理絵子は認識し、下手をしたら級友らが虜にされたかも知れぬと判ってゾクッとした。
 示唆が降り、その生じた戦慄を抑える。
 曰く恐怖するな。
 理絵子は先達の言葉を思い、歯を食い縛った。それは何度も言われたこと。恐怖と萎縮こそは魔の者達がまず使う作戦。すなわち、立ち向かう気力を萎えさせようとする。
 ハッタリ。高千穂登与を見よ。然り。
 その手には乗らないよ。理絵子は薄笑みを浮かべる。こうなったらジタバタしても仕方がないであろう。
 魔法円から目を逸らし、魔界の出入り口に一旦背を向け、高千穂登与を見る。
「高千穂さん、逃げるな。全部あんたのしたことだ」

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