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2009年2月 7日 (土)

彼女は彼女を天使と呼んだ(64)

 凝った意匠……文様を読んで気がつく。これはケルト十字じゃない。
 円環の部分に刻まれているのはヘブライ文字である。結論これは魔法円だ。お門違いだが話のネタ程度の知識は有する。ソロモンの秘法。用途に応じてデザインの違う魔法円を嵌め込んで使うのだ。
 彼女の小道具。お守りにして拠り所、最高の聖具。天使がイエスの象徴に頼るのもどうかと思うが。
 そして、今現在セットされている円環魔法円。
 サトゥルヌス・セスト。
 呪詛。
 そうかい。
 以上自分が読み取ったことを〝天使〟は驚愕と共に知った。
 理絵子は〝悪魔のように〟笑って見せた。
「相手してやる。だから少し黙れ。由佳、あなたは戻りな。見た通り下でみんなあなたを心配してる。取るべき行動は判るよね。その後で、あなたが昨日見たことをちゃんと説明する」
 理絵子は振り向いて笑って見せた。
 けだもの、と罵った相手が返したのは笑顔。
 その展開に北村由佳は戸惑い、少なからず驚いたようである。理絵子は背中に突き刺さる赤い視線を意識しながら、北村由佳に手を伸ばした。
「黒野さん……あの私……」
「何も言わなくていいから。あんなところ見たらそう思っちゃうって。でも、そのことと、この女の言いがかりは別」
 言いがかり、というそのフレーズ。
 〝赤〟が瞬間、炎のように燃え上がる。
 〝天使〟は手にしたロザリオ十字架をナイフか短剣のごとく振りかざした。
 が、そこで動作を止める。
 なぜなら。
「汚い私の血で十字架汚れていいのかな?」
 理絵子は自らの胸元に手をして、肩越しに天使を見、ケダモノの笑みで問いかけた。
 憎悪のみの少女。
 それは今、彼女の心の重い蓋が開いた証、と理絵子は知った。
 同時に、その尋常ならざる表情と雰囲気が、北村由佳に恐怖と忌避を与えたことも知った。
「じゃぁ、あの私……」 
 北村由佳がそそくさとばかり退室する。調子良すぎる娘だとは誰もが思うであろう。桜井優子の見立ては正しかったのだ。自分はそれを認めたくなかっただけだ。

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