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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【16】

「温暖化って南方系のクモには有利になると思ったけどそうじゃないんだな」
〈むしろ逆だな。さぁ、狭くて暗いが中へ〉
 私たちは製糸工房アミシノの中へ入って行きます。中には糸で作られた通路が入り組み迷路のよう。所々に袋小路のような部分があって、種類も大きさも様々なクモがいて糸を尾部から繰り出しています。それをボール状にしてそばに置いておくと、徘徊性(はいかいせい:巣を作らず歩き回るタイプのクモ)のクモが持って行く、そんなシステム。
 かなり奥まで進むと、広場のような場所。
「コバルトブルーのでけぇヤツだ」
 ゆたか君がまず言い、それから私も気がつきました。
 青いクモです。しかも金属光沢を帯びていて、そんな形に作ったロボットのよう。
 コバルトブルー・タランチュラ。但し自家用車のサイズ。人間さんの世界に住んでいるのは、もちろんせいぜい手のひらサイズですよ。
〈族長殿〉
〈人間の子どもではないか。よりにもよって〉
 ギガノトアラクネの声に対し、コバルトブルーはトゲのある、苛立ったような意志の声を返しました。
〈悲しみの風吹く谷の件で、協力をいただける、勇気ある……〉
 ギガノトアラクネは言いかけ、何かに気付いたように立ち止まりました。
〈また、仲間が意味もなく命奪われた〉
 コバルトブルーは溜息付くように言い、地面を脚でドンドンと叩きました。
 周辺からせわしく走ってくる足音が聞こえ、多くのクモが集まります。種類は様々、クサグモ系、ハシリグモ系、アシダカグモ、そしてタランチュラ……ツチグモ系。
 ただ、どれもとにかく大きな身体。
〈来た〉
 ギガノトアラクネが呟いて〝屋根〟の上を仰ぎ見、程なく、屋根の上にドサドサ、バサバサと何かが落ちてきました。
 屋根網越しに見るそれは種類様々なクモの身体。
 〝その辺にいるクモ〟から〝ペットとして飼われる大型種〟まで。しかも相当な数。
 ただ、動かない。トランポリンの上に放り出されたオモチャのように、数回バウンドして、止まると、それっきり。

つづく

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