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彼女は彼女を天使と呼んだ(72)

 それに、彼女が泣くような結果ではないのだし。
 対し北村由佳は、まずは顔をうつむかせた。その膝の上で拳がギュッと握られ、相当力が入ったか、手の甲から血の気が引いて真っ白になる。
 彼女の破裂しそうな心臓の音が聞こえて来そう。
「でも私にその気はないから」
 理絵子は声のトーンを変えず、再度端的に述べた。
「え……」
 北村由佳はうつむいていた顔を上げ、目を丸くして寄越した。
 彼を袖にするとは思っていなかったようである。
 自分にとって至上の存在。だから恐らく他者にも同様の……良くある思い込み。類例は軽いところで音楽ジャンルなど他にも多数。
「タイプ違うから」
 それはたった今思い浮かんだ〝理由〟。
 彼女に対する細々した〝理由付け〟はあれこれ考えてはいた。だが、アレはねコレはね、とピックアップして言うよりも、単にこれだけの方が、逆に理解を得られる気がしたのだ。
 端的に、端的に、ならば三度端的に。
 北村由佳に僅かな笑顔。
「だから」
 理絵子は語気を強めた。
 言ってから思う。さっきもそうだが、なぜか北村由佳に対して優しい声が出せない。笑顔を見ると、反射的にそれを曇らせる語が口を突く。
 厳しく当たりすぎだと自覚があるのだが、勝手にそうなってしまう。
 その都度、おどおどする彼女を見るのは、辛いのだが。
 彼女は確かに自分を利用しようとしたのだろう。で、そうと判って怒っているのか、自分。
 利とすれば笑顔。逆であれば手のひらを返し罵る。
 確かに、それはそれでケンカに発展して一般に不思議ではない。
 ともあれ。
「高千穂さんの見立ては間違い」
 理絵子は言った。〝天使〟が、どう判断して何をアドバイスしたのか知らぬ。知りたいとも思わぬ。だが、北村由佳の誤解と彼女の物言いを聞く限り、真実は捉えていなかったと言い切れる。
 歪曲したのだと知る。そのままでは〝霊能〟で北村由佳に応えることが出来ないから。
「高千穂さんは……」
 北村由佳は弱々しい声で言った。元通りの消え入りそうな、自信のなさげな。

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