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彼女は彼女を天使と呼んだ(63)

「何とか言いなさいよっ!」
 〝天使〟の唐突なその声は、背後で北村由佳が驚いて震えるのが判るほど。
 しかし、驚き見つめる北村由佳を、天使の娘は一顧だにしない。
 つまり現時点、天使の娘にとって北村由佳の存在はどうでも良いのだ。
 誰の目にも最早明らか、と書いていいだろう。理絵子にのみ向けられた私怨。そのためにこの機会を作った。それこそ、超感覚など無くても、〝女の勘〟ですら必要ない。
 で、あるなら。
「どうでもいいけどさぁ」
 理絵子は呆れた表情を作って返した。
「とりあえず、由佳を中に入れてもいい?私に対する個人的な話なら彼女関係ないでしょ。外で万が一に備えてるみんなだって可哀相だし」
 果たして天使の娘は眉根を鋭く屹立させた。
「バカにしてんの!?」
 彼女にとってはそうかも知れぬ。しかし理絵子にとっては、クラスのみんなが蔑ろにされていることを意味した。
 つまり、今度は、こっちが大きな声を出す番だ。
「たった今、いっちばん傷ついてるのは由佳で、そう仕向けたのは他ならぬアンタってのが私の認識なんだけど天使さん。おかげさまでクラス全員振り回して下さいやがりましてありがとさん。ええあなた中心に世の中回ったよ。ガッコの中だけね。でもココロ読めることとココロ判るのは違うんですよ天使さん」
 理絵子はそこで一呼吸置いた。
 自分に向けられたロザリオの十字架が揺れ動く。聖なるエンブレム台無しじゃんと理絵子は思う。ケルティッククロスだと文芸部ネタ用に仕込んだ知識が言って寄越す。十字架のクロス部分に円環を重ねたデザインであり、その円環は取り外して別のデザインの円環に交換できる。装飾は凝った意匠であり、表面加工の細工も手が込んでいる。細工師が一つ一つ彫金したとオカルト雑誌で広告された……レーザ光線加工量産品。

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