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2009年2月20日 (金)

彼女は彼女を天使と呼んだ(77)

 その術の具体的中身。このロザリオ。
 十字架の中心に刻まれた魔法円。
 近いどこかに現物が存在し、術式を履行したのだ。だがその場所は不明確。
 術式サトゥルヌス・セスト。ソロモン王の系統。その秘匿性の故に超常感覚に対するガードは強い。
 だったらば。
「みんなに頼みがある!」
 理絵子は般若の娘と対峙したまま、後ろを見ず声を発した。
「お、おう!」
 声で答えたのは健太君。いるのは他に糸山以下クラスの男子数名、桜井優子に田島綾。
 私の仲間達。
「この校舎……この4階のどこかに、オカルトな儀式の場がある。そこにこの……」
 理絵子はロザリオを見せようと一瞬後ろを向いた。
「理絵ちゃん危ない!」
 健太君が叫ぶ。彼のいわゆる動体視力は、運動系キャプテン相応に群を抜いており、そして、攻撃を察知する能力は、野性的なレベルにまで高められていると判断出来るだろう。
 彼の意図するところを、理絵子は言葉より先にイメージで感知した。
 突き出されたハサミに理絵子は手のひらのロザリオ十字架で応じた。
 ハサミの先端が十字架の中心に突き当たる。金属同士の衝突音が鋭く耳をえぐり、ハサミは十字架に軌道を変えられ、辛うじて理絵子の顔を逸れて通過し、ポニーテールを結んでいたスカーフを切った。
 理絵子の髪が花開くように広がり、幾らかの切れた毛髪がさぁっと驟雨のように舞い、はじき飛ばされたロザリオが床面を滑り健太君らの元へ。
「綾!」
 彼女がそれを手にしたことは見ずとも判った。
「あいよ!」
「お願い!この階のどこかにそれと同じ模様の魔法円がセットされている。探して場所を教えて!」
「判った!で?これは?」
「あなた達が持つには危険すぎる」
 理絵子が手のひらを向けると、ロザリオは綾から糸山の手に渡った。
 糸山は野球のアンダースローでコントロール良くロザリオを投げて返した。
 理絵子の手のひらにロザリオが戻る。
「信心深くない奴ら手を貸して……」
 友人達が声をかけ合い走り出す。
 残ったのは、自分達の対峙を見ている教員二人。

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