気づきもしないで【6】
目線を一旦外し、オレに戻す。
「だから、一緒にお見舞い」
「でも……」
「隣のクラスの男の子が花持ってお見舞いに来る。これ重要。ちゃんと彼女を見てる男の子がいてくれる。しかも隣のクラスなのに」
「ちょ、ちょっと待てよ。オレはただ単に花を」
「どうして交換しようと?誰がやってるか判らない花を変えようと?あんた小遣い少ないっていつも言ってるのに」
……どうもこう、幼なじみというか、母親もそうだが、〝知りすぎているオンナ〟ってのは先回りしてやりにくい。
「別に……どうでもいいだろ」
動機の説明が面倒くさい。
「そうかなぁ。どうでもいいヒトが待合室の片隅見たりしないと思うけどね。知ってるよ、毎朝見てたの」
何で知ってるんだか。ああやりにくい。
「だからって男の子が花買うなんて相当なコトだと思うんだけど?ワタシは」
「そこだけ生きてるからだよ。この駅で」
オレはとうとう言ってしまった。
「え……」
意外にも?成瀬は目を円くして凝固した。知りすぎてる割には予想外だったようだ。
「駅員いなくなった。ベンチも便所も無くなった。朝電気が消えて、夜電気が付くだけ。それでこの花まで無くなったら本当にただの出入り口じゃん。それが嫌なだけ」
オレはクモの巣張り放題、そのクモの巣すらも朽ち果てたようにホコリの付いた天井を見上げた。薄い青緑に塗られた梁と板。ぶら下がる蛍光灯は傘がサビだらけ。
「いいとこあんじゃん」
成瀬はそう言った。そして、
「だったら、アンタのその心意気で、マジで付き合ってくれると嬉しいんだけど。クラス代表お義理のお見舞いって思わせたら彼女可哀想だし」
真っ直ぐに見つめてくる。オレを気圧する方法を知っているから困る。どこで聞いたか忘れたが、女の子の視線はビームとはよく言ったもんだ。
「しょうがねぇな。でもオレ今80円しか持ってないぞ」
「しょうがねぇな。イイよワタシが貸してやっから」
「付き合ってやる駄賃に奢りじゃないのか?」
「マックスコーヒー一本付ける」
「いらねぇよあんな甘いの」
「その甘さからコーヒー本来の味わいを見出すのが本物の男」
成瀬は訳の判らんことを言いながら、元の花瓶と、しおれた花と、オレの使ったペットボトルまで持ってきたビニールに収めた。
「それはオレが……」
「別にいいよ。ゴミの処理までやってあげる優しい女の子だからワタシ」
(つづく)
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