彼女は彼女を天使と呼んだ(80)
「理絵ちゃんのやることじゃないなと思った。で、今朝ガッコ来て、糸山に訊かれて、これヤバいなって。……いたよ。そういやこいつ。あん時。『そのりぼん、理絵ちゃんに返しておくね』って持ってった」
健太君は倒置で言い、失神状態の北村由佳を顎で示した。
「こいつなんて言わないで」
理絵子は言い、北村由佳の手にあったりぼんを抜き取った。
「〝こころ〟読んだんだよね。同じ。一生懸命さ故の彼女の勘違いだよ」
「え?それって……」
こういう悟ってな言い回しに男子諸君は鈍感だと聞く。
でも、今はそれでいい。
そして北村由佳が自分に期待したことは要するにこういうことだろう。
だったら、これで果たした。
今はそれよりも優先してやることがある。恋に恋する乙女より、開けっ放しの秘密の裏口。
「高千穂登与」
理絵子は呼んだ。
「天使さん起きなさい。全てはあんたの蒔いた種。後片付けしに行くよ。言ってること判るよね」
理絵子は今度は自分のりぼんで髪を結わえた。
「力がなくなった……」
弱々しい声がもう一つのベッドから上がった。
まるで老いさらばえた老婆。
「逃げたからね。全部。ただ、まだこの辺をウロウロしてる。あんたが召還したんだから、責任取ってあんたが返しな。私はカバラはお門違いでね」
理絵子はロザリオを高千穂登与へ投げ返した。健太君がここへ戻って来たということは、儀式の場所が判ったと言うことだ。
「魔法円はどこに?」
「第2理科室の準備室。なんだあれ。気持ち悪い」
健太君の吐き捨てるような言葉は、魔法円の背景事情が彼の耳に入った時、北村由佳の想いは成就しないことを示した。
「なんで……」
高千穂登与が驚愕を口にする。なぜ儀式の場所が判ったのか?
「あなたの力は、あなた自身の物ではなかった。有象無象が、あなたの物と思わせるように、仕向けただけ。そして、あなたは、あなた自身の物と思いこんだ」
「そんな!」
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