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彼女は彼女を天使と呼んだ(70)

 つまり、思考のスパイラル。
 メタボ氏の相づちを得て理絵子は続ける。
「彼女にとって、自分のコトバに従わない周りは、何も見えない危なっかしい幼子のように思えるのでしょう。親御さんが子どもに手取り足取りするように、つい口出ししたくなる。先生ですらも。過去いませんでした?オトナのクセにこんなことも知らないのかって感じの子」
 理絵子は言い、それが、ネットいじめの〝炎上〟と同じメカニズムであると気付いた。つまり、掲示板なりに悪口を書き込まれ、書き込まれた本人がムキになって否定。そこを揚げ足取られ、因縁付けられ、なおさらに攻撃される。攻撃は増殖し、掲示板は罵詈雑言で埋め尽くされ見るに堪えず。その有様火が付いて燃え広がるが如く、故に〝炎上〟と呼ばれる。
「……ああ、そういう子と同じか。恐竜とか電車の駅とかお前辞典かって思うくらい知ってる子な」
「同じです。彼女の場合ココロが判ってしまうんですよ。気持ち悪いほどに。先生は過去、そういうタイプの子達にどんな対処されてました?」
「お前スゴイな、オレにも教えてくれよ。……ああ、判った」

19

 保健室。
 毛布を羽織ってお茶を手にした北村由佳が、ベッドに腰を下ろしている。
 傍らに養護担当の女性教諭の姿があり、ドアが開くと二人してそちらに目をやる。
 捉えた状況にハッと目を見開き、小さくびくりと震える北村由佳。養護教諭はちょっと待ってと手のひらで彼女を制し、立ち上がる。
 この手の事態は教諭間で話が回るのが普通であり、特に養護教諭は優先順位が高い。
「黒野さ……」
「黒野さんね。一緒と思った」
 北村由佳と養護教諭が同時に声を出し、教諭の声が北村由佳を上回った。
 理絵子は北村由佳に目を向けてみた。ベッドに座る彼女の身体が目に見えて萎縮し、その目線が下を向く。セーラーの上からでも一回り小さくなるのが見て取れる。
 人は恐怖に対すると防衛本能から筋肉を硬くして縮こまる。ただ、彼女は、理絵子自身を恐れているのではない。

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