気づきもしないで【5】
サイテーとでも何とでも言え。判ってくれなくていいんだぜ。
ところが、成瀬はフフンと鼻で笑った。
「これだからダメなんだよ男の子わ」
〝わ〟は敢えて〝わ〟。そんなイントネーション。
なんか底意地の悪い姉貴に叱られてる弟みたいな気分のオレ。誕生日はオレの方が17日早いんだが。
「この花タイキだったの?違うね、まさかね」
成瀬はオレが何か言う前に勝手に結論して、手にしていたビニール袋の口を開いた。とりあえず、オレが今まさに及んでいた行為が〝花の交換〟だとは見抜いたようだ。
「同じ花連続で使ったりしないし」
言いながら取り出したビニールの中身は……良く判らないが要するに生け花だ。
「この花ってお前だった?」
「違うよ。ウチのクラスの古淵(こぶち)さん。この作品は恐らくアンタと同じ動機で華道部が作った」
成瀬は花瓶の代わりに華道部の花を置いた。
「グラジオラス貸して。で、ちょっと付き合って欲しい」
成瀬はオレの手からグラジオラスを抜き取ると、花屋でもらった包装に包み直した。
「はい」
と、オレに寄越す。
「はいって……」
「その古淵さんが調子悪いからお見舞いに行くの」
「オレもかよ……知らねぇぞそんなヤツ」
「ホラ4月に分校から移ってきた彼女だよ」
「ああ、お前のクラスの?」
「そう」
分校。このおんぼろ列車で2つ先の駅にあった。少子化で廃止が決まり、この春から本校へ合流、良くあるパターン。ただ、背景にもう少々複雑アリ。その分校は彼女たった一人が生徒だったわけだが。
「例のウワサ彼女も知っててさ」
廃校が半年延びたのは、唯一の生徒であった彼女が本校を〝ガラが悪い〟と嫌ったためだというウワサ。
それによって少なからず彼女を受け入れる本校側の雰囲気が悪かったのは確かである。
でも、実際ガラ悪いわけで。
ただ。
「それで何で駅に花?」
「一発目は実はワタクシ。ガラ悪いなんて思って欲しくないじゃん?だから彼女が来る最初の日に花瓶置いたの。そしたらあの花誰?って訊かれて、じゃぁ私がやるって以降彼女が……彼女なりに溶け込む糸口が欲しかったんじゃないかと思うけどね」
「ふーん……で、体調崩したから枯れちゃった、と」
「溶け込めなかったみたいでさ」
成瀬は呟くように言った。
(つづく)
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