彼女は彼女を天使と呼んだ(75)
対し、使い魔どもからは驚愕と忌避が返った。逃亡の意識を感じた。理絵子と〝目〟の合った使い魔は、次々試合放棄に近いような状態で担当物を中途半端に投擲し、この世ならざる世界に去って行く。言葉にするなら『バレちまっては仕方がない』。
結果、物理的には以下のようになった。中空に渦巻いた有象無象は一旦動きを止めると、唐突に弾丸のように連続発射され、次々シュッシュッと空気切り裂いて投げつけられた。
それらのあるものは壁に当たって割れ砕け、あるものは壁に突き刺さり、あるものは壁に弾かれて回転しながら宙へ返され、或いは床に叩きつけられた。
機銃掃射を食らったように、壁面の右から左へ向かい、有象無象がダダダダッと音を立てて衝撃して行く。
但し、理絵子達には掠りもしない。
一連の衝撃音が収まったところで、理絵子の腕の中から北村由佳が顔を上げた。
彼女が見たのは、高千穂登与の頭の上に浮かぶノートパソコン。
北村由佳は声を上げた。
パソコンを支える力が失われた。
理絵子はとっさに北村由佳のベッドから枕を掴んで投げつけた。
高千穂登与の頭の上でパソコンと枕が衝突し、双方ベッドの向こうへ落ちる。
パソコンが落下し、がしゃんと音を立てて破損し、部品が散らばり、転がる。
同時に、大きな音と共に保健室ドアがくの字に曲がって破壊された。
ドアもろとも倒れ込んで来たのは、メタボ教諭氏と学ランの男子生徒。
健太君。
「理絵ちゃん、大丈夫かっ!」
切れた。理絵子の超感覚はそう言って寄越した。
怨嗟の炎。
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