【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【13】
「これ!」
男の子は興奮気味に大グモさんを指さしました。
さぁ、男の子にも、読んでいらっしゃる皆さんにも、お話ししなければならないことが沢山あります。中で、最初に申し上げたいのは、呪文に対してここへ送られたのは、恐らくガイア様のお考えに基づくということ。
「クモたち、ありがとうね」
私は、まず言いました。
「え……」
男の子は驚いた表情。
「なんで……」
クモの存在を知っているのか。
私は答えず、代わりに、男の子の手を持ちます。
男の子、気付きました。
「あんたそれって翅……」
〈礼を言う。少年よ〉
それはギガノトアラクネの意志。持った手を通じて、私の仲介で彼に伝わった。
ギガノトアラクネは毛だらけの黒い歩脚(ほきゃく・要するに脚のこと)を一本、彼に向けて伸ばします。
〈幼き者よ、貴殿は地上の同胞たちの紡いだ思いによってここに降り立った〉
言葉にすれば厳かで硬いです。でも、その意図は直接伝わっています。
〈一つ問う。貴殿が我ら同胞を集めて育む理由は如何に〉
「寒いのに卵産んでないから」
男の子は即答しました。
「突然寒くなると動けなくなるじゃん。だからだんだんヒーター切る時間を長くしようか、って思ってたとこ」
感慨深いため息……人間さんに喩えるならそんな感じでしょうか。
ギガノトアラクネは、物腰も言葉も、柔らかくなりました。
〈これは大したもんだ。そう思いませんかエウリディケさん〉
「ええ」
私は頷きます。何がどう、は、追って説明する機会があるでしょう。
「てかお前何者?」
思い出したような彼の問いに、私は黙って翅を広げました。
妖精という概念は要らない。虫寄りの生命体とだけ判ってくれればいい。
「ここはクモ達の国」
私は言いました。
「クモの……」
〈私が説明しよう〉
ギガノトアラクネはこの国の存在意義と、クモたちの糸と織り姫の話。そして、糸を姫の元へ届ける仕事を、そうした〝不快〟というだけで命奪われた虫たちが担っている、と話しました。
〈ところが〉
姫の元へ向かった虫たちが最近事故に遭う。途中狭く細い岩場の道を行く。そこは常に強い風が吹いているので、小さいがある程度の重さのある身体を必要とする。このためムカデやサソリが好適なのだが、どうやらその細い道で何かと遭遇し、傷つけられて帰ってくる。
それは私も初耳。
「ガイア様のお力でもどうにもならない?」
〈守り許す力ではないと判断されたようです〉
「それで……」
私たちは男の子を見ました。
「……お、オレ?」
ガイア様のお考えに基づくということ。
(つづく)
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