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彼女は彼女を天使と呼んだ(60)

「けだもの」
 少女は接近する理絵子に対しそう罵った。両の手の間を渡るりぼんは、引きちぎられるかの如く。
「見たわけだ」
 対し自分の声の酷薄なこと。
 でも何故だろう。別に彼女に対し怒っているつもりはないのだが。
「ウソ付いて……手握られて嬉しそうに……」
 それは彼女の立場に基づいて〝勝手に進行して〟解釈した誤解。反射的に「違うよ」と言いたくなるが、この状態では自分が否定するだけ、何を言ったところで、無駄だろう。
「彼からそう聞いたの?それとも……」
 言い終わらぬうち、反射的な動きで彼女は窓枠に向かって小走りし、アルミサッシを手で掴み、体重を掛け、足をかけた。
 窓の下方を覗き込んだに相違ない。下からの皆の声。きたむら~。ゆか~。やめて~。
 待ち伏せがいると知るや、北村由佳は今度は反対側の窓へ走った。
 しかし、窓に顔を付けただけでその先の行動を躊躇する。当然だがそっちにも皆に回ってもらっている。その姿が見えたのだろう。
 北村由佳は音楽室を彷徨う。日向の窓を見、日陰の窓を見、
 理絵子をチラチラ見ながら歩き。
 どのタイミングで彼女に接近しようか、理絵子は考える。誤解であること、場面の正確な説明と、自分にその気はないことと……
 されどこの状態から。
「なんで……」
 北村由佳はついに立ち止まりそう呟き、理絵子を睨み、そのまま涙を流した。
「私、行き場がないじゃん……」
 りぼん持ったままぺたりと座り込み、屈辱に堪えるように歯を噛み鳴らす。
 その時背後に気配。強い気配。
 理絵子は振り返った。

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