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ブリリアント・ハート【13】

 レムリアは諦念した。こういう接客を生業とする人は、経験によって、相手の本質をズバリ見抜く能力を獲得している場合が多い。
 もちろん、ウソ付いてもバレバレ。
「はい」
 開き直って答える。さっきの看護師と同じ事をすればいいかとも思うが、心理的にブレーキ。同じ事を2度もするのは、この人の良さそうな男性を欺すようなことをするのは、後ろめたい。それに、仮に実行に移せば、今後出会う人々全てに同じ事をする羽目になりそうな予感がある。それはウソにウソを重ねて…と同じメカニズムであって、行き着く先はそれ系の童話逸話を持ち出すまでもあるまい。つまり、そうなってしまったら最後。
 加えて、仮にそれでこの場をしのいでも、男性から記憶が消えるわけではない。追跡の動き出す時間が数十分、後にずれるだけの話。追ってどんどんバレるだけで、自分の行動軌跡を残すことに同じ。宿に着く前に追っ手が掛かるか、仮に007帰還に成功しても、あちこちで吹聴されてしまい、“こっそり”の意味がなくなるか。
「誘拐、ではないんですな」
 運転手は言った。
「ええ。自分の意志です」
 レムリアは答えた。バレて強制送還なら、早いほうが、自分の被害も回りの迷惑も小さくて済むのは確か。
 ところが。
「ベスパでもなく、かぼちゃの馬車でもなく、じじいの転がす古ぼけたタクシーですが、よろしいですか?」
「は?」
 言って、運転手は、“賃走”状態を解除した。
 レムリアは気付いた。男性が今言ったのはそれこそ“ローマの休日”に出てくるバイクの名であり劇中セリフの引用だ。
 意外な展開。いや第一印象通りの展開と言うべきか。
「ちょっと失礼」
 男性はポケットから携帯電話を出し、どこかへダイヤル。090…とりあえず、警察ではない。
「…あ、三郎か。竜一だよ。悪いけど今から送るメールの写真をネットの掲示板に貼ってくれんか?タイトルは“ウワサの姫様、鎌倉にて”で。え?言われた通りしてくれればいいんだって。深いこと聞くな。うん、よろしく」

つづく

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