気づきもしないで【7】
待ち時間は15分程か。
やがて日暮れな時間であって、さりとて夕方帰宅ラッシュには早すぎて。今から山奥へ向かう列車に乗ろうという客は皆無。
成瀬は〝うわさ〟の流布状況について訊いてきた。
「オレが知ってるのは遅らせた疑惑だけ。他の連中はもっと知ってるかも知れねーけどな。でも、オレにはそんなことどうでもイイし、関係ねーし気にしねーし」
「彼女と喋ったことは?」
「始業式の挨拶で声聞いたっきり。廊下ですれ違ってるかも知れねーけど、顔覚えてないから判らねー」
「男の子の無頓着って都合いい時はホント都合いいよね。ますます結構」
「なんだそりゃ」
「女の秘密」
到着した列車は1輛。学校と交流のある高齢者施設の職員の方が降りて、代わりにオレ達が乗ると、車内はオレ達だけ。
整理券を取って、ボックスシートに適当に陣取る。ちなみに冷房なんて贅沢装備とは縁のないローカル線なので、とりあえず窓全開。
エンジン全開1輛編成発車。
「でも何でコソコソやってるわけ?」
座るなり、成瀬はいきなり訊いてきた。こういう唐突と言うか、思いつきというか、
女の子の言動だなぁ。
「花なんかいじってるの見られたら何て言われるか」
「いーじゃん何で?」
「男が花だぞ」
「華道やってる男性いるよ?」
「お前、この学校だぜ?」
「じゃぁあんたが『花男』見たら何て言うわけ?あー花なんかやってるひゅーひゅーって?」
「違う。こう、なんつーかな。男ってポリシーがあるだろ?花は男のポリシーじゃねーんだよ。ナヨっぽい。女々しい」
「それワケわかんない。植物学者とか、樹木医とか。虫捕まえようと思ったら植物の知識必要だと思うけど」
「虫取りはお子様の遊び」
「お子様がよく言うよ。じゃぁ男の子は覚えた知識捨てるわけ?ポリシーが違うからって」
何だろうこの言葉の暴力!
「お前さぁ」
「何?」
「お前が幼なじみじゃなきゃ、うるせぇバカヤロー状態だぜ」
「言えばいいじゃん。うるせーバカヤローって。幼なじみに遠慮は要らないと思うけど」
「オレいじめて楽しい?」
「楽しい」
しかし良く喋るオンナだねお前。
短いトンネルの間だけ成瀬はお喋りを止め、トンネルを出たら駅へ着いた。
(つづく)
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