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気づきもしないで【4】

 だらだらした上り坂が続くが、隣町へ行くほどハードな峠道じゃない。ただ、原則として自転車通学は禁止。理由……通る車が少ないので、途中で何かあっても誰にも見つけてもらえない可能性があるから。
 駅へ着く。人に見られたくないわけで、列車で来るわけに行かないわけで。
 次の列車まで30分。今のうち。
 ……悪いコトしてるわけじゃないのになんか後ろめたい。
 花瓶からしおれた花を抜き取る。水に浸かっていたせいか腐り始めていてちょっと臭う。
 ってこのしおれた花どうしよう。駅のゴミ箱はとっくの昔に撤去済み。その辺に捨てる?
 腐りかけの花持って突っ立っていること10秒。
 後回しにして新しい花を移すことにする。まずは水……。
 どこで入れよう。トイレはとっくの昔に封鎖済み。オレの学校のバカ共って本当に必要なモノを次々とこのバカチンが。
 思い出す。確か前の自販機にミネラルウォーターがあった。
 残金200円から120円でお買い上げして花瓶に注ぐ。
 で、釣り竿ケースから取り出したる新品グラジオラス。
 花瓶に挿し……。
 長い!このまま花瓶に入れれば頭が重くてコテンと倒れる。ああ、そういや良くテレビの花を生けてるシーンで茎切ってるよな。
 結論。男が思いつきで花買っちゃいけない。
 どうしよこれ。茎、折れるかな。
 オレは両手で茎を持ち、じわじわと力を加えて行く。……でもなんかこれって植物虐待の気が。
 その時。
「あれタイキ!?うわお前何やって……」
 目も口も真ん丸に開いて立っていたのは、それこそ向かいの家の幼なじみ、成瀬。
「ハサミなんか……持ってねぇよな」
 オレは隠していた何もかもを忘れて、思わず訊いた。
 対し、成瀬の瞳に映っているのは、今まさに植物に虐待を加えんとする幼なじみの男、床に置かれたしおれた花、空っぽの水ペット。

つづく

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