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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【15】

 クサグモの巣に似た、と書けば判る方もあるかも知れません。ツツジなどを糸のベールで覆ってしまい、良く見ると隅っこにクモがいる。息をフッと吹きかけるとサッと逃げる。あれがクサグモです。
「わぁ、巣なんだあれ」
 ギガノトアラクネの背中から、ゆたか君が言いました。もやの正体はびっしりと敷き詰められた糸です。糸の下はクモたちが糸を紡ぐ工房。
 アミシノ。糸は覆う屋根、兼。
 近づくに従い、屋根糸の上をクモたちが行き来する様が見えてきます。このギガノトアラクネ程ではありませんが、ゆたか君並のサイズはある大型のクモたちです。
〈エウリディケさんもここは初めてでしたな〉
 〝屋根〟のそばまで来て、ギガノトアラクネは一旦止まりました。そのまま中に入ると、上に乗っているゆたか君が屋根網に引っかかってしまう。
〈降りてもらえるか?〉
 ゆたか君が歩脚を降りている最中、工房の中から〝ざわざわ〟とばかりに無数の小さなクモたちが出てきて、ぴょんぴょんと糸引きながら跳ね、ギガノトアラクネに飛びついて行きます。
〈わあいお帰りなさい〉
〈あそぼあそぼ、ねぇあそぼグランパ〉
「子グモ……」
〈ああ、地上で生まれることが出来なかった、な。君がさっき言った通りさ〉
「え……」
〈あ、にんげんだ〉
〈わぁほんとうだ。グランパ、なぜこんなのつれてきたんだよぉ〉
〈この子は違う。族長様のお客様だ。遊ぶのはその後だ子ども達〉
〈ちぇ〉
〈つまんなーい〉
〈でもしかたないか。やい、にんげん。ここでみょうなことしたら、おれたちがゆるさないぞ〉
「しねーよ」
 ゆたか君は答え、
「オレが言った通り?」
 と、子ども達に遮られた言葉の続きをギガノトアラクネに尋ねました。
〈君はさっき言ったね。突然動けなくなると。この子達はその結果生まれる機会を失い、ここに送られたのさ。今、地上ではいつまでも夏が続き、突然、冬に変わる。産卵のタイミングを失ってしまう。君はどうやらそのことに気付いているらしい。だから私もエウリディケさんも感銘を受けたのだよ〉

つづく

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