彼女は彼女を天使と呼んだ(103)
「オトナの皆さんは楽ですね。聞きたくないことには耳をふさげばいい。聞かなかったことにすればいい。……学者の本によれば脳がそういうフィルタこさえるんですってね。でも、だからお前もそうしろと言われた生徒達が過去何人、更に深い傷を負って命を絶ったか。あまつさえは心が弱いとまで言われた。そんなの、いい大人が子ども傷つけてる以外の何物でもない。大人って子ども守ってナンボじゃないんですか」
かなりきついこと言った、つもり。
しかし。
「それが何の関係が?」
それこそフィルタが働いてる発言。自分の台詞の内容などどうでもいいのだ。もうあからさまに苛立っている。
教育委員会のお偉い提案を学生如きに否定抵抗されるのが気に入らないのである。お仕着せ結論早く飲んでシャンシャン終われ。
それって、子どもの心理、そのもの、じゃないのか?
「聞きたくないことが耳に入って傷つくのが思春期なんです。だから、些細なことも聞き漏らすまいとしてしまうのが思春期。そして、傷付くと、傷を補おうと別の傷を付けに行くのが思春期。そこにネットがある」
「だから、見に行くからいけないのだろうが」
どうにもそこに帰着させたいか。
「そうでしょうか。世界中から自分の悪口が丸見えって判ってるんですよ?学校帰りのひそひそ話とワケが違う。でも、やってる側は同じフィーリングで全世界に向かって誰々のバカ死ねって書くわけです。受け取った側は深刻ですよ。下手すると低俗雑誌の記事みたいにあることないこと書いてある。ウチの学校もいろいろ書かれましたよ。事件の内容が内容ですからね。でも教育委員会サマ何してくれました?記者会見で遺憾ですと言うだけ。私たちがどれだけ心細い気持ちになったか」
「君は教育委員会を糾弾しに来たのかね?」
「私の髪型が何の関係が?」
義務と権利、という論点ではこれで両成敗だと思うが。
「出て行きたまえ」
白髪老眼鏡氏はいきなり言った。
その高圧的かつ〝強制終了〟の反応は、臭い物に蓋、そのもの。
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