気づきもしないで【13】
「それ私に対する当てつけ?」
「女の子の家に男の子一人は心細かろうとか、有り難くも助言したのはどこの誰だよ」
勝った。
そこへお母さん。
「今日は雪乃のためにわざわざどうも。はい、これ、町田さんがお持ち下さったグラジオラスよ」
釣り竿ケースから茎をむしられてミネラルウオーターじゃぶ付けにされるところ、救われて師範代に花瓶に移され女の子の机の上へ。
お前、幸せな花だなぁ。
「あ、白いヤツ大好き。どうもありがとう」
雪乃ちゃんはニコッと笑った。
「いえ、たいしたことじゃ」
照れるぜ。
「飲み物は冷たい方がいいかしらね。アイスクリームもお出しできますが……」
「いえお構いなく」
この受け答えは成瀬。オレには出来ない芸当。
「お茶を用意しますね。座ってらして。雪乃。何か当てるのを出して差し上げて」
「恐れ入ります」
なんでこういうセリフがスッと出てくるんだろうこいつ。
雪乃ちゃんはベッドの下から座布団を出してオレ達に勧めた。
「お二人はお友達なの?」
成瀬の所作を見よう見まねでオレも正座。
「朝学校に行こうとドアを開けると、コイツの顔が向かいの家のドアから出てくる」
「お互い様」
「じゃぁ、幼なじみ?」
「自分の意志で選ぶことの出来ない友達とも言う」
「ウチの大樹と遊んであげてねって」
オレ達のやりとりに彼女はころころ笑った。
いや半分マジなんだが、彼女が笑ったのなら、この場は恐らくそれでいいんだろう、と思った。
ウワサに心痛めて出てこられなくなった……この笑顔見る限り、そんな印象は受けない。しかし、それは束の間の認識。
「わざわざ、ありがとね」
彼女はオレ達から目線を外し、外を見て言った。
「男が女の子の家に合法的に来るチャンスってのはそうそう無くてね」
オレは言った。
成瀬がオレを誘ったその意図、買った。
「え……」
彼女はハッとしたような丸い目でオレを振り向いた。夕暮れ間近い残暑の陽光と、髪を揺らす風。
背後でノック。お母さんだ。
(つづく)
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