【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【19】
「わかったよ」
私の声を遮って、ゆたか君は不満げ。
「一つにするよ」
オオジョロウグモが作業を再開します。少し書きましたが、ジョロウグモの糸は、集めれば魚が捕れる網になるほど丈夫です。
大きなランドセルのように、腕を通せる輪を付けて、荷物が出来上がりました。
〈持てるかな男の子〉
オオジョロウグモがするすると降りてきて、ゆたか君の背中に糸玉をあてがいます。ゆたか君が輪に腕を通して出来上がり。
「なんかゲームの主人公みたいだ」
ああなるほど。ゆたか君の言葉に私はふっと納得しました。彼はここを単純に〝クモの国〟と捉えています。異次元・異世界なのですが何の抵抗も持っていません。ここは何処、家へ帰してと言いません。
その理由がこれということ。もちろん、〝逃げたい〟結果としてここへ来たというのはあるでしょうけど。
出発準備完了。
〈妖精の君〉
コバルトブルーが私を呼びました。
「はい」
〈今一度確認しておくが、古き伝えにより決してあなたは手を出してはならない。ただ、言伝のみは許される〉
「判りました。してどの方向でしょうか」
〈この山を登るのだ〉
先にも書きましたが、アミシノは山裾にあります。その山を登って行け。
見上げる山は上に行くほど坂が急になり、頂上は雲の中。
「これ、歩いて登るのか?普通はどうしているんだ?」
〈いつもは、ムカデさんが来てくれていました〉
オオジョロウグモが言いました。
妖精は、言伝のみは許される。
〈……はい、私を呼ぶのはどちらさまでしょう〉
〝近くに糸運びをしていたムカデさんはいますか?〟の問いに対する答えがこれ。
言伝。すなわちテレパシー。
用件を伝えます。
〈山登りだけならいいでしょう。でもそこから先はお断り〉
〈構いません。そこまで男の子を一人〉
〈判りました〉
〈妖精の君、あなたは狡くていらっしゃる〉
〈いいえ、何か乗りたいというのは彼のアイディア〉
程なく、地鳴りのような響きが聞こえて来、やはり巨大なサイズのムカデが森の中から歩いてきました。
(つづく)
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