ブリリアント・ハート【17】
5
住所からすると彼女…あすかちゃんのお宅はアパートのようである。コート・イワフジ205。
一方通行が多く、たどり着くまでにやや要したが、どうにかアパートに行き着けた。
鉄筋コンクリート三階建てであり、駐車場脇エントランスでは、奥さん達が談笑中。
タクシーをその駐車場の空き区画に入れてもらい、降り立つ。奥さん達の目がちらりとこちらに向き、談笑が止まった。
…“誘拐王女”のことは知っているようである。但し、現時点では“似ている”程度の認識で、まさか、とすら思っていない。
しかしここまで来ればすぐにバレることだ。あえて隠す必要もない。
「…すいません」
あすかちゃんについて尋ねてみる。
意外な返事が返ってきた。
「あすかならウチの娘ですけど…今近所の公園に逆上がりの練習に行ってるの。何かご用?」
“教育ママ風”そんな印象の女性が、やや強い口調で言った。余所者に対する警戒心。
「あの、今日の“救え世界の子ども達”の講演で質問を頂いたんですが、お答えする時間が無くて…」
母親は少し考え、背景を理解したらしく、ああ、と言った。
「…関係者の方?」
「…ええそうです」
「お子様スタッフ?リニア館みたいな?」
「あ、はい」
レムリアは答えてから、母親の物言いの意味を知った。その博覧会で、出展している鉄道会社が子どものアテンダントを募集し、自分もその類と受け取ったのだ。このあたりは特殊能力。
「あらそう、もう少しで帰ると思うんだけど」
あすかちゃんの母親が首を伸ばす。レムリアはその方向に意識を向け、そして察知し、視線を向けた。
「あら帰ってきた」
母親が言い終わる前に、レムリアは視線の先にあすかちゃんを捉えている。
「奈良井あすかさん?」
レムリアの問いかけに、メガネの少女は足を止めた。
訝しげに自分を見、程なくメガネの奥の目を円くし、更には口まであんぐりと開く。
「…!」
自分を指差して何か言おうとするが言葉が出ない。
「何ですかあすか!初対面の人指差してっ」
母親が叱る。
(つづく)
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-2-(2022.08.06)
- 【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-1-(2022.07.23)
- 【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-4・終-(2022.07.09)
- 【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-3-(2022.06.25)
- 【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-2-(2022.06.11)
「小説・魔法少女レムリアシリーズ」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -09・終-(2022.05.04)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -08-(2022.04.20)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -07-(2022.04.06)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -06-(2022.03.23)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -05-(2022.03.09)
コメント