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彼女は彼女を天使と呼んだ(100)

「どういうことかね?多数決にて論は決した。これを君たちの総意として……」
「失礼ですが、教育委員会の皆様は、それで本当に解決するとお考えで、この提案をなされたのでしょうか?」
 扉閉じられる前に核心を口にする。
 すると、白髪老眼鏡氏は露骨に嫌悪感。
「何だって?」
「効果があると思えません」
「随分と失礼な物言いじゃないか」
 だから失礼だと言ったじゃないか。
 しかし、あんたも失礼だ。
「私たち年代の特有の心理、私たち世代の情報環境、それらを踏まえた有効な結論であるとは到底思えない」
 敬語を略す。これで言葉が強くなる。
 居並ぶ他校の委員達がざわつき始める。自分の言動は、傍目には、学校通り越して教育委員会に楯突く行為そのもの。
 すると老眼鏡氏は、鼻の上の老眼鏡を下方にずらし、上目遣いでじろりと理絵子を睨んで寄越した。
「無知だと言わんばかりに聞こえるが」
「そう言ってます」
 これもケンカだ。理絵子は思った。
 ざわつきが一瞬にして氷のような沈黙に変わる。それはもしかして、みんなの拒絶か。
 白髪老眼鏡氏は苦笑混じりに咳払いを一つ。
「ずいぶんと小馬鹿にされたもんだな」
「情報武装くらい中学生でも出来ます。それこそネットで幾らでも手に入りますから。不都合だから遮断できるってメディアじゃないですからね。良い子には良いものだけを。そんな操作ができる時代じゃないんですよ。対して頂戴したレジュメには『由々しき事態となっている。このままではインターネット接続そのものを校則で規制することになりかねない』と、まず書いてある。とてもネットの双方向性を背景にした資料とは思えませんし、それが議論の結論とまず決めてあるようにも読み取れる」
 理絵子はホワイトボードのカルトゥーシュをボールペンの先で指し示した。

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