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彼女は彼女を天使と呼んだ(90)

 彼女が反射的にその姿勢を取った。すなわち〝和〟の礼儀をそれなりに仕込まれた娘なのだと理絵子は理解した。
 和の誠意を携え、高千穂登与は惹き付けられるようにヴァルキューレアルヴィトを瞳に収める。白き聖女が彼女の瞳に結像する。
 高位霊的存在との邂逅。
 彼女がそもそも意識したキリスト教的〝天使〟ではない。但し、真にして聖なる天の使いであり、同位比肩する。
 聖女アルヴィトは小さく笑った。
〈礼儀ありがたく受け取る。シャーマンの娘よ。そなたは強い。但し聞け。そなたに忠告がある。力を安易に用いるな。そなたの力は安売りするものではない。力は救うため、伝えるために備わったものだ。そもそもが特別なのだ。それはそなたさえ判っていればよい。あまつさえはこの凜たる娘はそなたを知った。凜たる娘は理解した。それ以上何か必要か。蓋然性を吟味せよ。
 特別を認めさせるために利用するではない。本質を掌握せよ。奥深くへ格納せよ。なぜなら今後も有象無象がそなたを誘惑し利用しようとする。それはそなたが強いからだ。そなたは真か偽か見極め、都度選択をする必然に遭遇する。されば最初から隠しておけ〉
 アルヴィトの言葉は文字に起こすと難しく、語彙は中学生が操るものではない。ただ、意図は伝わったはずである。
 超常感覚の故に。
〈不安か〉
 登与の動揺を見抜いて聖女アルヴィトは尋ねた。
 ごっそり無くなった彼女の〝力〟。彼女はここに来て、その実質が魔性による心の蹂躙であったと理解した。
 この聖女アルヴィトと対極をなすが故に。
 そして当然訪れるのは、再度同じ事態へ陥る恐怖。
〈……はい〉
 登与は素直なまでに頷いた。すなわち、三度書くであろうか、〝自信がない〟。
 超能力を持っていても、心の堅牢さを証(あかし)しない。
 力は決して堅牢な心を築かない。
 堅牢な心を築くのは力ではない。
 ただ、堅牢な心は強い。
 聖女アルヴィトは登与の答えに頷き、理解を示した。
〈よろしい。ならば、これを持て〉
 聖女アルヴィトは腰の大剣を抜いた。鮮烈な銀色に輝く剣。
 次いで豊穣なる黄金の髪をたくし上げ、その中程を太刀で断ち切る。
 肩の下でばっさりと切り落とした髪の毛。理絵子が思い出したのはギリシャ神話、〝かみのけ座〟の話。
 聖女アルヴィトは、理絵子に唇の端で笑って寄越した。
〈ならば話が早い〉
 剣を元通り腰の鞘に収め、切った髪の毛を二つに分ける。
〈シャーマンの娘。これを〉

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