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彼女は彼女を天使と呼んだ(107)

「そういう大人の皆さんの思惑、無言の子どもの大量生産。それが諸悪の根源。押さえられて動きが取れず、鬱憤の行き先がないからネットに吐き出す。ブラックホールの始まりはそこでしょう。それ抜きにして一足飛びに携帯禁止はそりゃぁ大人の皆さんおいし過ぎます。ってか、因果が逆じゃないんですか?」
「何だと!黙って聞いてりゃ図に乗りおって子どものくせに!」
 白髪老眼鏡は理絵子を指さし、糾弾の構え。
 対し理絵子はポニーテールの黄色いりぼんを外し。
 机の上に真っ直ぐに置き。髪を流し、手を櫛にして少し梳き。
 ポケットから、くるくる巻かれた黒いりぼんを取り出し。
 黒いりぼんをくるくるほどく。
 中身は純白携帯電話。黒いりぼんは黄色の隣に真っ直ぐに伸ばして並べ、電話をスライド。
「電話ならお貸ししますのでどうぞ。このまま発呼で校長のポケットに直結です。でも、ああそうですかって言うだけでしょうけどね。校長とはこの会に参加するに辺り、充分に意見交換をしてきました。私がどのような意見をここで述べるか先刻ご承知です。対して再三再四失礼ですが、私たちの物言いに感情的で一方的な押しつけは如何なものでしょう。見ようとしない聞こうとしない。私たちの世代敏感ですからね。おざなりされると感覚的に判っちゃうんですよ。ええこの会の趣旨は理解してます。ネットいじめ問題に対して、生徒が、どうあるべきか。……というわけで集まってくれた皆さん、やってみました。私たちが自ら率先して攻撃の盾となる。それを先生方が理解して味方してバックアップ」
 種明かし。
 暴露の言に58人がどよもし、避けていたみんなの目が、逆に自分たちに集まる。
 校長了承済み。その説得力の強さは良く心得ている。
「担任校長どころか教育委員会なんかに目をつけられたらお先真っ暗。それは判るよ。でも、それにビクついて携帯全面禁止に渋々賛成。したが最後、後々あいつらのせいだ伝説みたいに言われる。でもそれならまだいいよ。通り越して、携帯がなかった為に緊急連絡もできないなんて事故が起きたら責任が取れない。自分たちのために同じ制服着た誰かが危険な目に。そんなの冗談じゃない。臭い物に蓋の論理で携帯禁止なんて私は断固反対。紫外線は危険だからって太陽禁止?それと同じこと。まずは正確に知って、自分自身の判断基準を持つのがあるべき姿。ただ、私たちだけじゃ無理で、経験豊富な大人の皆さんのサジェスチョンがいただければ。何か間違ったこと言ってますか私」
 理絵子は喋りながら髪の毛をツインテールに変え、片方を黄色の、片方を黒のりぼんで結んだ。
 すると隣席、市立一中のブレザーの娘が席を立った。
「ずれてるよ」
 りぼんを直してくれる。
「ありがとう」
「りぼんの色で主張するのって伝わらなく無くない?」
 逆に言えば、この彼女は気付いたということ。
 そして、白髪老眼鏡氏のボルテージが下がってきたと理絵子は感じた。
 失礼な物言いが単なる噛みつきではなく、真意があったと伝わり始めたのだ。
 段丘を越えた。

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