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彼女は彼女を天使と呼んだ(108)

 だったらもう少し。
「21世紀の今は〝勝ちか負けか〟が判断基準の時代です。誰のせいか知りませんが。だからこそ……橘(たちばな)さん、ご記憶にあるでしょう、昭和の学生みたいに共通の価値観持てる時代じゃない。心をトゲで鎧って、そのトゲでお互い削り合って、ギザギザになった心でさらに削り合う。もうみんなボロボロなんです。そんな時代に必要なのは、守る力ではないでしょうか。橘さんの世代の言葉で言うならネットのガキ大将ですよ」
「ガキ大……」
 白髪老眼鏡橘氏の声から、トゲが消えた。
 ガキ大将。理絵子はその概念を父親から言葉で聞き、マンガのキャラクターに見た。
 それは、遊び道具がゲームで、コミュニケーションがネット空間、では育たない、子ども社会の地位。
 なぜならリアル人間同士コミュニケーションを経て生まれる存在だから。強弱関係の中で求められる、弱い子の味方であり、大人の強圧にすら立ち向かう義。
 ガキ大将がなぜそのように振る舞えるか。そんな己れを支持する多くの子どもがあり、その義の故に大人も一目置くから。
 恐らくは父性の早熟な発露。
 父が言った、警察官を選んだ理由が、そこでシンクロした。
「なるほど」
 ガキ大将。その言葉の持つノスタルジーと真意は、橘氏の目尻を下げた。
 仕掛けた意図が伝わった。
 なら、あと一押し。
 その地位に立候補する。とした時、お願いが一つあるのだ。
「我が校の主張をまとめます。我々学級委員は全員の味方を出来る立場にあるということです。どのくらいの力があるかは今示しました通り、教育委員会さんもたじたじ。だったら、そんな日陰でコソコソやってるようなゴキブリ同然の悪意からクラスメート守るくらいできるはず。ただ、本校校長は了解いただけましたが、同様な、イザというときの私たちの盾を、教員の皆さんにお願いできればってことです」
 理絵子はそこで傍ら健太君の肩先を指で突いて促した。
 男決めろ。
「何かあったらオレに言ってこい。どうにかしてやる」
「かっこいいじゃん」
 理絵子は言った。少し野望的な響きを含むかも知れないが、黄色いりぼんや、或いは、かたどったバッジやネクタイピン。それがこの街の学生を象徴するアイテムになれば。
 自分自身が後々何を言われようと。
「以上です」
 理絵子は目を閉じて言い、着席した。

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