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気づきもしないで【12】

「あははは……」
 背後から聞こえてきたのは転がるような軽やかな笑い声。
「面白いひと……」
 オレに対するその言葉が聞こえたその時、何かがオレの中で「ころん」と音を立てた。
 背後にスススー。
「あら雪乃ったらお友達立たせたままで。……あの、どうぞ、あら町田さんどうして後ろを?」
「恥ずかしがってます。浴衣姿の雪乃ちゃんが可愛いって」
「ば、バカお前……」
 思わず振り返って成瀬にツッコミの一つでも。……って、否定したら可愛くないって意味じゃないか。
「正直、可愛いです」
 オレは直立不動で彼女に言った。全身が熱くて頭がボーッとする。多分、耳まで真っ赤ってヤツなんだろう。
「ありがとう。入ってください。別にうつすような病気してるわけじゃないんで」
 彼女はカーディガンを羽織り、そうやってオレ達を招き入れた。
 お母さんの手には花瓶。
 〝一息付いた〟そんな顔で生き生きと花開くグラジオラス。同じ花でこうも変わるモノか。
「散らかってますけど」
 確かに転入生紹介で聞いたあの声だ。ただ、その時よりずっと弾んで聞こえる。
 ころころ……ころころ……。
 ドアを開けると不思議な空間。ひとくくりに〝古民家〟と呼ばれる系統の古い日本家屋なんだと思う。大黒柱に太い梁を骨格として組み立てられている。
 そんな太い梁がドーンと一本、頭の上を横切り。
 でも中は水色が主体のポップな空間。勉強机に本棚に、ぬいぐるみに大切な本や写真。窓際にベッドがあって、彼女はそこに腰掛けた。
 和洋折衷というか、時間すらも交錯した〝接点〟。
「女の子の部屋だよなぁ」
 オレの素直な感想。

つづく

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