【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【17】
死んでいる。私と同じタイミングで気付いたようで、ゆたか君の身体がぎくり。
〈趣味嗜好で命をコントロールし弄ぶのが人間か、少年よ〉
コバルトブルーは言いながら、屋根網を切り開きました。この屋根網は、〝兼〟失われた命を受け止めるために。
落ちてきたクモたちの亡骸を、集まったクモたちが食べます。
凄惨な状況です。詳しくは書きません。ただ、獰猛で血に飢えた、というより、悲しい儀式、と私は受け取りました。
〈その通り、母の中に戻すのだ。妖精の君。彼らは殺されたのではなく、母の元へ帰ったのだ〉
コバルトブルーは重く言いました。
〈だから、私のように巨大になる〉
次いで、ギガノトアラクネが告白するように。
このクモたちが大きくなるということ。それはその分、多くのクモが命失うこと。
悲しい儀式が終わりを告げました。
〈さて、何の用事かな?少年〉
コバルトブルーの問いかけに、ギガノトアラクネが次第を説明。
〈君が糸を持って行くというのか?〉
「そうだよ。糸はどこにある?」
〈ちょこざいな。真の勇気を持たない者があそこを通ると命を失う。帰れ〉
それはコバルトブルーの試みであると私は気がつきました。つまり、ゆたか君の真剣さを推し量っている。
〈恐怖と驚きと悲しみがお前を襲う。お前のような小僧がそれに耐えられると私は思わぬ〉
「やってみなくちゃわかんねぇじゃんかよ。あんたそこ行ったことあんのか?」
ゆたか君はそう応じました。
コバルトブルーは……笑った。になるのでしょうか。そんな意志で、
〈よかろう。但し怖じ気づいて戻ってきたら取って食う。そこでお前が命落としたり、別の世界へ飛ばされても我らは関知せぬ〉
「判ったよ。糸はどこだい」
〈案内しよう。こちらだ〉
私たちはコバルトブルーの後について、アミシノの恐らく反対側へ出ました。
屋根網の外側に糸玉が沢山積んであります。届けられない在庫なのでしょう。
〈あっ。族長様。申し訳ありません。請け負ってもらえる方がなかなかその……〉
「オオジョロウグモだ!」
(つづく)
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