【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【20】
黒光りする連なる胴体に真っ赤な頭。トビズムカデです。アオズムカデという種類もあるので、鳶色をした頭のムカデという意味でしょうか。鳶頭、青頭です。
〈ほほう。人間か〉
まるで大型旅客機の着陸、といった風情で、巨大トビズムカデは私たちの所へ走り込み、足を止めました。
「すっげー!恐竜みてえー」
〈私が怖くないのかね?〉
トビズムカデ氏が訊きました。
「毒があるから悪い生き物ってことはないじゃん。人間の方がよっぽど……」
ゆたか君は言いかけ、ハッとしたような表情で言葉をちぎり、笑顔一転うつむきました。
〝悪い生き物〟の悪いことを、他ならぬ自分自身がしていた、と気付いたのです。
〈なるほど、だから君は資格があるわけだ〉
トビズムカデ氏はそう、言いました。
「えっ?」
〈まぁいい。いずれ判ることだ。優しさは口で説明するものではない。それと同じこと。乗りたまえ少年〉
最前の元気は火が消えたよう。ゆたか君はしょんぼり、ムカデの背中に上がって、座りました。
「オレってヘンな子なんだろうな。やっぱ」
独り言のように、ゆたか君は言いました。
衝撃的な自己認識が、冷静な自己分析に……難しく書けばそういうこと。簡単に書けば、一度、悪いと思い始めると、どんどん悪いことを考え始める。
お医者にかかれば〝鬱の兆候〟と言われるでしょう。
ゆたか君の〝思い出したくない記憶〟が、さーっと走馬燈のように私のテレパシー領域を流れて行きます。
彼は転入してきた。
教室に出たゴキブリを、〝すごいと思ってもらおう〟と踏みつぶした。
しかし戻った反応は〝気持ち悪い〟。あまつさえは〝ゴキブリ野郎〟。
「クモとか、ゲジとか、それこそムカデとかさ、キショいって言われる奴らの気持ちが判ったような気がしたんだ」
〈ほう……行くぞ〉
がしゃがしゃがしゃ……身体が大きいので動けば音がします。まるで機械か、鎧を着た古代戦士の集団が歩いているよう。
(つづく)
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