彼女は彼女を天使と呼んだ(92)
ともあれまずは円の解放。二重の力場が掛かっているので、先に自分の封印を解く。
「オン キリ キャラ ハラ ハラ フタラン バソツ ソワカ」
理絵子はこれを3回唱え。
「オン バサラ ドシャコ」
最後にこう付け足し、指先で小石を弾くように、中指で中空を弾いた。
円柱結界と直交軸をなす密教力場が消失する。
次に魔法円。
こっちは何も要らぬ。それこそゴルディオンのようにただ単にぶった切ればよい。
すると、高千穂登与が興味を示した。剣という頼れる存在のなせる技か、だったら〝処理〟したい。自分でケリを付けたい。そんな気持ちが少し。
「一緒にやる?」
問うたら、高千穂登与は頷いた。
二人手を合わせて剣を持つ。ゴルディオンの結び目……要するに通常の儀式次第では最早解きほぐせないほどグチャグチャだから剣で断ち切れ。
アレキサンダー大王の逸話。
床面に剣先を立て、血塗られた円を上から下まで一気に切り裂く。
軌跡に沿って流星が走る。そして。
爆発。と現象的には言って良かった。ガラスが割れ砕け、超常的にロックされていたであろう廊下ドアがへし折れて吹き飛ぶ。
凄絶な砂嵐が吹き込む。
さながらハルマッタン。但し勿論、近場に砂丘の類があるわけではない。
超常の少女二人は思わず目を閉じる。閉じつつも、剣を共に持ち、各々に託された黄金の髪の毛を胸に抱き、風から守る。
自分の胸の谷間が何かを守る……女神性と交信した影響もあろうか、理絵子は自分の〝女〟を強く激しく意識した。
砂嵐はひとしきり吹いて、去った。
上履きのゴムが床をこする音。
「これは一体何があったんだ?」
健太君である。人の肉声が懐かしい。
二人は全身を覆う砂を払い落としながら立ち上がる。キラキラと金色に跳ねながら砂が床に散る。
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