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彼女は彼女を天使と呼んだ(109)

25

 お開きの後も残った理絵子達に、橘氏は露骨にいやな顔をしたが。
 理絵子がひとこと非礼を詫びたら一転笑顔になって、ビルの9階レストラン街で夕食をご馳走してくれた。
「骨のある子は少なくなったな。おちおち叱ることもできん」
 述懐、と書くに相応しい口調で、橘氏は言った。聞けば、夜の街をPTAのタスキ掛けて巡回してるとか。
「ケンカしませんからね。初めてのケンカが殺人になったり。負けたくないですからね。絶対の武器を手にしたがる。で、手近な刃物でとりあえず斬りつける」
「コペルニクス的転回が必要ってわけか」
「それって地動説が天動説とかいう……」
 健太君のセリフに、理絵子は逆、と言いかけ。
「周りが動いてやらなくちゃいけないってことでは、彼の言った通りかも知れませんね」
「教員の鬱が増えるわけだ」
「だからこそ、みんなで一緒に力を合わせる必要があるんですよ。犯人捜しと責任のなすり合いでは何の解決にもならない。何もかも先生先生では先生がすり切れてしまいます。みんなで何とかしなくっちゃ。こうなっちまったと後悔しても、現実が変わる訳じゃない」
「そうだな。動こう。で、無知で申し訳ないんだが、その黄色いりぼんに込めた意味は?」
「ぐぐれ……ウソです。ティーンエイジャーの自殺防止」

 終わって橘氏と別れ、駅前広場の天蓋をなすペデストリアン・デッキの上。
 冬至間近いこともあり、見上げる空はキラ星の宝石箱。都下だが山裾に位置する分、見える星の数は都心より多いと理絵子は思う。
「ふたご座流星群ってさ」
 健太君が駅ビル上方を見上げて言う。
「過ぎたよ」
 理絵子は言った。活動のピークは月の半ば、といつぞや調べたことがある。
 彼が自分を振り返る。
 その表情の悲しそうな。
 気づく。今まで自分は、彼の言動のことごとくを、先回りし否定してきたかも。
 いや、きたかも、ではない、確実にしてきた。そしてそれは、小さいが尖った針となり、都度少しずつ、彼を傷つけてきたに違いない。
 無意識に。
 なぜなら自分が同じ立場なら、傷つくだろうと思うから。
 特定の気持ちの介在の故に。
 されど。

次回・最終回

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