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気づきもしないで【11】

 オレは手の中のグラジオラスをじっと見つめた。そんな家の子にこんな花。
 成瀬の声が途切れた。
「町田……さん?」
 お母様がオレを呼んだ。
「は?はい」
「そちら、長い時間持ってられました?」
 グラジオラスのこと。
 炎天下持ったままうろついたせいか、少しぐったり。
「ちょっと拝借。まぁ、お上がり下さい。雪乃は部屋にいます。どうぞ。雪乃ぉー。お友達がお見舞いに来てくれましたよ」
 お母さんは振り返りながら言い、がちゃ、とドアが開いて、ツインテール……いや、おさげ髪と書くべきだろうか、白い浴衣の女の子。
 屋内の薄暗さも手伝っただろうか、透き通るような白い肌の女の子。
 小柄で、驚いて真ん丸になった瞳の幼さ。
 ぽけー……オレの行動を端的に書くとこうなる。
 目が離せない。彼女を上から下まで全部見つめてしまう。古淵雪乃……ちゃん。
 かわいい。
「えっ?あの……その……」
 果たして雪乃ちゃんはオレを見返しつつ、慌てて浴衣の前を合わせつつ。
 彼女のその仕草は、オレという〝男〟が来るとは知らなかったことを意味した。
 てゆーか浴衣の下下したシタ下って下着だろ。
 回れ右。
「突然ごめん。オレ隣のクラスの町田と言います。駅の花が枯れかけてるのを見てそれが古淵さんだってコイツから聞かされてそれで……」
 何だこのセリフ。まるで成瀬のシナリオみたいじゃないか。
「ぐ、グラジオラスにグラジオラスじゃ芸がないけど、と、とりあえず同じなら少なくともキライじゃないだろうって」
 後ろを向いて、直立不動でそう言うオレの視界を、おばあちゃんが一人横切って行く。
「あれこんにちは」
 おばあちゃんオレ見てニッコリ。古淵さんちの家の中から外へ向かって選手宣誓みたいな学生一名。
「はい、こんにちは、です」
 オレは言い、激しいバカをしていることに気付いてそのまま引き戸を閉めた。

つづく

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