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気づきもしないで【9】

 真っ白な最新型音楽携帯電話。タッチパネルでいじるヤツ。発売直後、都会の店に行列が出来てニュースになった。
「すっげー」
 オレは思わず言った。使ってるヒトを初めて見た。
 すると男性は隙っ歯だらけの口で笑って
「カッチョエエだろ。これ鳴らしながら仕事するとはかどるんだわ」
 若手演歌歌手のファンとか。mp3でダウンロードして突っ込んでる。
 ナントカ節mp3。
 演歌って〝昭和くさい〟んだけど、この辺り21世紀なんだろうなぁ。
 男性の華麗な指さばきで一発接続。
「……ああ、さくらさんかい?若林だがね。お宅の雪乃ちゃん。……え?ああ、それでかね。本校からボーイフレンドさんがお見舞いに」
「ちょ、ちょっとおじさん!」
「いない?女の子さんも一緒だがよ」
「成瀬、と言います」
「成瀬さん……そうらかね。案内……え?いいよ。オレが連れてっちゃるって。オレの田んぼの門とこだし。あい、あい、判った」
 男性は携帯をランニングの下に戻した。
「べ、別に付き合ってるわけじゃないっす。成り行き上ここにいるだけで」
 オレは早速言った。
「んじゃその花は何だべや?まぁええ。この後ろの軽トラの向こうの角を右曲がって3軒目だ。庭に犬がいてワンワン吠える。そのもう一軒向こうだ。どっちも古淵だから間違うでねーぞ。犬がいる方はヨメさんがお喋りのウワサ好きでな。彼氏が来たとかあること無いこと言うでな。飼い主に似るとはよく言ったもんだて」
 男性は肩越しに背後の軽トラックを指さして言った。〝あることないこと〟がやや引っかかるが。
「判りました。ありがとうございました」
「ええってことよ。またおいで」
 〝また来る〟ことがあるのかどうか知らないが、オレ達は言われた通り軽トラの向こうを曲がった。
「オレが花を知られたくない理由が判ったか?」
「全っ然」

つづく

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